大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1282号 判決

控訴人 藤原小雪

右訴訟代理人弁護士 池田達郎

被控訴人 石崎直也

被控訴人 石崎斯征

被控訴人 石崎昭雄

右三名訴訟代理人弁護士 寺尾寛

同 佐藤昇

主文

一、原判決を次のとおり変更する。

1. 被控訴人らは控訴人に対し、控訴人から金九〇〇〇万円の提供を受けるのと引き換えに、別紙物件目録(一)記載の建物を収去して同物件目録(二)記載の土地を明け渡せ。

2. 被控訴人らは控訴人に対し、昭和五三年五月三〇日から昭和五四年三月三一日までは一か月三万六四九一円、同年四月一日から昭和五五年三月三一日までは一か月四万〇一四〇円、同年四月一日から昭和五七年三月三一日までは一か月四万一六七二円、昭和五七年四月一日から前項の明渡済みに至るまでは一か月四万六六九一円の各割合による金員を支払え。

3. 控訴人のその余の請求を棄却する。

二、訴訟費用は、第一、二審を通じて二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの負担とする。

三、この判決の第一項1、2は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴人

1. 原判決を取り消す。

2. (第一次請求)

被控訴人らは控訴人に対し、別紙物件目録(一)記載の建物(以下、「本件建物」という。)を収去して同物件目録(二)記載の土地(以下、「本件土地」という。)を明け渡せ。

(第二次請求)

被控訴人らは控訴人に対し、控訴人から金九〇〇〇万円あるいは裁判所が適当と認めた金員の提供を受けるのと引き換えに、本件建物を収去して本件土地を明け渡せ。

3. 被控訴人らは控訴人に対し、昭和五三年四月一日から同年五月二九日までは一か月二万六〇〇〇円、同年五月三〇日から昭和五四年三月三一日までは一か月三万六四九一円、同年四月一日から昭和五五年三月三一日までは一か月四万〇一四〇円、同年四月一日から昭和五七年三月三一日までは一か月四万一六七二円、昭和五七年四月一日から本件土地の明渡済みに至るまでは一か月四万六六九一円の各割合による金員を支払え。

4. 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言

二、被控訴人ら

控訴棄却の判決

第二、当事者双方の主張及び証拠関係

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示及び当審記録中の書証目録、証人等目録の記載と同一であるから、これを引用する(ただし、本判決では、原判決にいう「原告所有地」を「控訴人所有地」という。)。

一、原判決三枚目裏末行の次に行を改め、次のとおり加える。

(二)したがって、控訴人所有地は、周辺地域の状況からみて、もはや居住用の一戸建て建物の敷地として使用するには、不適当であり、中高層ビルを建築して経済的効率的な利用が図られるべき土地となっている。

ところで、控訴人所有地は、西側が幅員一五メートル、東側が輻員六メートルの公道に接し、西側の間口は二二・三七メートル、東側の間口は約一五メートルの東西に細長い凹凸のある地形であるところ、西側間口の約四四・六六パーセントに当たる九・九六メートルを本件土地が占めている(なお、東側間口のうち五・一六メートルは訴外下村に賃借中の土地部分が占めている。)。したがって、本件土地を除いた場合、控訴人所有地は西側間口一二・四一メートル、奥行約五〇メートルの細長い土地となり、その効率的な利用が妨げられることは明らかである。

さらに、控訴人が控訴人所有地に中高層ビルを建築するためには、自己資金がないため他人資本を活用せざるを得ないが、控訴人と提携して控訴人所有地に中高層ビルを建築したいと申し出ている藤和不動産その他の他人資本は、すべて控訴人所有地の西側間口が二二・三七メートルであること、すなわち、本件土地を利用し得ることを前提としており、本件土地を除いた控訴人所有地上に中高層ビルを建築することはできない事情にある。

二、原判決四枚目表一行目冒頭に「(三)」を加え、同裏六行目「(二)」を「(四)」、同一〇行目「(三)」を「(五)」とそれぞれ改める。

三、原判決四枚目裏末行、同五枚目表一行目「五人だけである。」を「五人だけであり、被控訴人石崎斯征はその住所地に土地建物を所有し、被控訴人石崎昭雄はその住所地に日本住宅公団(現在の住宅・都市整備公団)の建物を賃借して居住しているので、本件土地の必要性は被控訴人石崎直也について考慮すれば足りるものである。」と改める。

四、原判決五枚目表三行目の次に行を改めて次のとおり加え、同四行目「(四)」を、「(七)」、同裏二行目「(五)」を「(八)」とそれぞれ改める。

(六)被控訴人らは、本件土地上に八階建てのビルを建築し、そのすべてを事務所・店舗・居宅として賃貸することを計画しており、本件土地に居住することを予定していない。

五、原判決五枚目裏四行目「右立退料の額は」から同六行目「六〇〇〇万円」までを「控訴人は、本件賃貸借期間満了直前に、被控訴人らに対し、被控訴人らが本件土地を明け渡すならば本件土地の借地権価格相当の立退料または控訴人が計画中の中高層ビルの区分所有権を提供することを申し出た。当時の本件土地の借地権価格は七〇〇〇万円ないし八四〇〇万円であるが、早期解決を図るため立退料の額は九〇〇〇万円」と改める。

六、原判決五枚目裏末行「昭和五三年」から原判決六枚目表二行目末尾までを「昭和五三年五月三〇日から昭和五四年三月三一日までは一か月三万六四九一円、同年四月一日から昭和五五年三月三一日までは一か月四万〇一四〇円、同年四月一日から昭和五七年三月三一日までは一か月四万一六七二円、昭和五七年四月一日以降は一か月四万六六九一円である(地代家賃統制令によれば、昭和五三年以降における地代の月額の停止統制額又は認可統制額は、当該土地の固定資産税課税標準額に一〇〇〇分の五〇を乗じた額に一・〇八(昭和五八年一二月二三日からは一・三七と改定されたが計算の便宜上それ以降の分についても一・〇八を使用する。)を乗じて得た額とその年度の固定資産税額及び都市計画税額との合計額に一二分の一を乗じて得た額とされているので、右各金額は右統制額に準拠して算定したものである。)。」と、同六行目「六〇〇〇万円」を「九〇〇〇万円」とそれぞれ改める。

七、原判決六枚目裏三行目「(一)の前段は認める。(二)の後段のうち」を「(一)は認める。(二)は争う(控訴人が中高層ビルを建てたいのであれば、本件土地を除く控訴人所有地に建築すれば足り、本件土地の明け渡しを求める正当な事由はない。)。(三)のうち」と改める。

八、原判決六枚目裏七行目「(二)」を「(四)」と、同八行目「(三)」を「(五)」と、同行「現在の」を「被控訴人石崎直也の」とそれぞれ改め、同九、一〇行目「否認する。」の次に「(六)のうち、被控訴人らが本件土地上にビル建築計画を有していることは認めるが、その余は争う。被控訴人らはそこに居住することを前提としてビル建築を計画しているものである。」を加える。

九、原判決六枚目裏一〇行目「(四)」を「(七)」と、同行「(五)」を「(八)」とそれぞれ改め、同行末尾に「現在における本件借地権の価格は約二億八〇〇〇万円であり、控訴人がこれを九〇〇〇万円の立退料で取得するのは不合理である。」を加える。

理由

当裁判所は、控訴人の本件各請求のうち、本件建物収去土地明渡の第二次請求及び使用料相当損害金の請求はいずれも理由があり、その余は理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決理由と同一であるから、これを引用する。

一、原判決八枚目裏四行目「第四、」の次に「第八、」を、同行「第一一号証、」の次に「第二八号証の一ないし四、第二九号証、」を、同五行目「第七号証、」の次に「第一七、第一九号証、第二一ないし第二四号証、第二七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二〇号証、」を、同六行目「各証言」の次に「及び原審における被控訴人石崎斯征本人尋問の結果(後記認定に反する部分を除く。)をそれぞれ加え、同五行目「証人藤原尚」を「原審及び当審証人藤原尚」と改める。

二、原判決九枚目裏九行目「原告は」から同一〇行目末尾までを次のとおり改める。

本件賃貸借期間が満了した昭和五三年当時から現在に至るまでの控訴人の継続的な収入は、川崎の土地建物、芝及び恵比寿の土地の賃料収入であり、その額は昭和五三年が一五一万三〇八〇円、昭和五四年が一五〇万五二八〇円、昭和五五年以降は一六八万五二八〇円であり(なお、供託されている本件土地の賃料月額一万六八〇〇円は算入されていない。)、これに対する必要経費は、昭和五三年が六〇万四一二三円(うち固定資産税・都市計画税が三六万三三〇二円)、昭和五四年が四六万七四四〇円(うち固定資産税・都市計画税が三五万七二五一円)、昭和五五年が五〇万九七六三円(うち固定資産税・都市計画税が三七万四六一六円)、昭和五六年が五七万一七八一円(うち固定資産税・都市計画税が三七万四六一六円)、昭和五七年が一一七万〇二九七円(うち固定資産税・都市計画税が四一万四二七四円)、昭和五八年が一〇七万三一三六円(うち固定資産税・都市計画税が四五万八三六九円)であり、その外に控訴人居住の土地建物の固定資産税・都市計画税(昭和五三年は七五万四一四一円(ただし、家屋分を除く。)、昭和五四年は八二万九五五四円(ただし、家屋分を除く。)、昭和五五年及び昭和五六年はいずれも八八万八三三四円、昭和五七年は九七万四四五七円、昭和五八年は一〇六万九一九二円)などを納めると、右賃料収入のみでは控訴人の生活費に不足する状態である。

なお、昭和五三年においては芝の土地の賃貸借更新料九一万二〇〇〇円及び川崎の土地の一部売却金八二四万五九五〇円の収入があったが、それは臨時的なものであり、昭和五四年以後は賃料収入のみである。

三、原判決一〇枚目表四行目冒頭から同裏五行目末尾までを次のとおり改める。

(四) 控訴人所有地の地価は年々上昇し、これに伴って公租公課の負担も増大してきたため、控訴人の三男尚が中心となって、昭和四四、五年ころから、控訴人所有地の効率的な利用を図り控訴人の生活を安定させようと種々計画を始めたが、控訴人所有地は幅約二〇メートル、長さ約五〇メートルの不整形地である上、公道に接する西側間口二二・三七メートルのうち九・九六メートルを本件土地が占めている関係上、効率的な利用計画を立てることができなかった。

そこで、尚は、本件賃貸借の期間満了を待って本件土地をも含めた効率的な土地利用を図ろうと考え、昭和四八、九年ころから、その旨を被控訴人側に話していた。

(五) 控訴人は昭和五三年三月ころ被控訴人らに対し、本件土地を含む控訴人所有地に中高層ビルを建築したいので本件土地を期間満了とともに、明け渡して欲しい旨を申し入れるとともに被控訴人らには、その借地権割合に応じて右ビルの区分所有権を提供してもよい旨を申し入れ、同年六月には三井不動産株式会社に勤務していた被控訴人石崎斯征が同行した不動産鑑定士をも交えて双方の話し合いが行われた。その際、被控訴人らは、本件土地上には被控訴人らの空中権があるので本件土地上に何階建てのビルを建てようとも、本件土地上に存在する部分はすべて被控訴人らに権利があると主張したため、話し合いは不調に終わった。

なお、控訴人は、更新拒絶の意思を明確にしておくため、被控訴人らに対し同年五月二五日付けの内容証明郵便をもってその旨を通知し、同書面において、①金銭、②控訴人所有地の北東部分の代替地(賃借権設定又は所有権移転)、③建築予定ビルの区分所有権のいずれか一つ、または①と②又は③のいずれかとの組合せにより借地権相当額の立退料を提供する旨を申し入れた。

(六) その後両者の話し合いは一時途絶えていたが、その間複数の業者が控訴人側に被控訴人と共同でビルを建築することを持ちかけ、特に長谷部建設が熱心に働きかけたが、尚は長谷部建設に対して信頼感を抱いていなかったため、これを断った。

その後、等価交換方式による中高層ビルの建築が税法上有利な取扱いを受けられることになったので、尚は再び昭和五六年二月ころ被控訴人石崎斯征に対し、ビル建築に協力して欲しい旨を申し入れたが、被控訴人側からは返答がなかった。そして、被控訴人らは、同年四月、本件土地周辺は中高層ビルが多い繁華街であり、本件土地の両側隣地にもビル建築が行われているので本件土地の利用効率を高め周囲の状況に適合した合理的な利用を図るため、本件土地上に鉄骨鉄筋コンクリート造八階建ての居宅兼店舗兼事務所を建築したいとして東京地方裁判所に借地条件変更の申立てを行った。

(七) 控訴人は、昭和五六年五月ころ、藤和不動産から本件土地を含む控訴人所有地に等価交換方式により一一階建ての鉄骨鉄筋ビルを建築することを内容とする「恵比寿コープ等価交換計画案」を受け取り、右借地非訟事件において、被控訴人らにこれを提示して話し合いを行ったが、被控訴人側は、右計画案における借地権割合が七〇パーセントであったこと及び土地の坪単価が一律に同額であったことに難色を示し、借地権割合は八〇パーセントとすべきであり、また本件土地部分は公道に面しているので奥の部分よりも坪単価を高くすべきであると主張した。

そして、昭和五七年一月ころから同年六月ころまでの間に約一〇回にわたって話し合いが続けられた結果、被控訴人側において新築されるべきビルのうち店舗部分一五坪、住居部分四五坪を取得することで合意が得られそうな情勢になったので、尚において、借地権割合は七〇パーセント、本件土地部分の坪単価は奥地部分より約三割増との考え方に立って、被控訴人らは一階店舗部分一五坪及び三階から一〇階までの西側部分から被控訴人らが自由に選択する住居部分四五坪を取得することを骨子とする合意書案を作成したが、被控訴人側は、借地権割合、階層別の効用比、デイベロッパーとの交渉手続などについて不満を示し、結局合意に至らなかった。

なお、昭和五八年及び五九年分の相続税財産評価基準によれば、本件土地及びその周辺の土地の借地権割合は七〇パーセントとされており、また、控訴人は、その後前記住居部分の配分案につき三パーセント(一・三五坪)の上積みを申し出たが話し合いはまとまらなかった。

四、原判決一一枚目裏八行目冒頭から原判決一四枚目裏四行目末尾までを次のとおり改める。

3. 右認定事実に基づき控訴人被控訴人双方の事情を検討するに、前記認定事実によれば、控訴人が本件土地の明渡しを求める理由は、控訴人所有地全体に中高層ビルを建築することによって土地の立体的効率的な利用を図り、もって控訴人の収入及び生活の安定を図ることにあること、控訴人所有地の立地条件及び周辺の状況からすると控訴人所有地に中高層ビルを建築することは土地の利用方法として極めて当然なことであり、社会経済的見地からも望ましいものであること、控訴人の収入を確保する手段としてはその所有地を売却することも考えられるが、土地の売却は税金対策上得策でない上に、控訴人としてはその所有土地の有効利用の途を選択する方がより合理的な方法であり、資産の先細りを招くような売却の方法を選択させることは相当でないこと(控訴人はそれほど膨大な土地を所有しているわけではない。)、控訴人所有地に中高層ビルを建築する場合には、控訴人所有地の形状、立地条件からみて本件土地をもその敷地とすることが土地の効率的利用上望ましいことが認められ、これらの事情にかんがみると、控訴人が本件土地を使用することを必要としていることは明らかである。

もっとも、前記認定事実によれば、本件土地上には、被控訴人石崎直也一家が現に居住している本件建物が存在していることが認められるので、控訴人に前記のような事情があるとしても無条件で本件賃貸借の期間満了による終了を認めることはできない。

したがって、控訴人の本件建物収去土地明渡請求のうち第一次請求は理由がない。

4. そこで、第二次請求について検討するに、前記認定事実によれば、本件建物は建替えの時期にあり、被控訴人ら自身も本件建物を取り壊して本件土地上に中高層ビルを建築することを考えており、本件建物自体を存続させる必要性が絶対的なものではないこと、被控訴人石崎直也は本件土地に生まれ育つたとはいうものの、同人が本件土地に居住しなければならない客観的な必要性が認められないこと(被控訴人石崎斯征は、原審において、同人が都内に通勤するため本件土地に居住する必要があると供述しているが、弁論の全趣旨によれば、同人は現住所地(千葉市内)に土地建物を所有し、同所から通勤していることが認められるので、その交通事情からみて同人が本件土地に居住せざるを得ないまでの必要性を認めることはできず、また、仮に同人が都内に居住することを欲しているとしても、そこが本件土地でなければならない客観的な必要性を認めることができない。かえって、原本の存在及び成立に争いのない甲第一三号証によれば、被控訴人らによる本件土地上のビル建築計画では、その資金計画、収支計算上ビル内の居室事務所等すべて賃貸による賃料収入を取得するものと予定されていることが明らかである。)、控訴人は本件賃貸借の更新拒絶に際し、金銭、代替地あるいは区分所有権などにより借地権価格相当の立退料の提供を申し出ており、その後両者の話し合いが続いたが、控訴人は終始誠意ある態度を示し、適正な明渡条件を提示していたこと(両者の話し合いは本件賃貸借期間満了前後から継続して続けられているものであるから、その間の事情は本件賃貸借の更新拒絶の正当理由を判断するに当たって当然考慮し得るものである。)、そして両者の話し合いがほぼ合意点に達しながら結局成立しなかった主たる原因は借地権割合についての双方の見解の相違にあったこと(前記認定事実によれば、本件土地の借地権割合は控訴人が主張するように七〇パーセントであると認めるのが相当である。)などが認められ、これらの事情にかんがみると、本件賃貸借の更新拒絶は、立退料提供などの経済的条件を加えることによってその正当事由を具備するものと認めるのが相当である。

5. そこで、控訴人が主張する立退料九〇〇〇万円の相当性について検討するに、前掲甲第二一ないし第二四号証、第二八号証の一ないし四、第二九号証及び弁論の全趣旨によれば、本件賃貸借の期間満了時(昭和五三年五月二九日)における本件土地の価格は、坪当たり二二八万円と認めるのが相当であり、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、前記認定事実によれば、本件土地の賃借権割合は七〇パーセントであると認めるのが相当であるから、右単価及び借地権割合に基づいて本件賃貸借の期間満了時における本件土地の賃借権価格を算定(二二八万円×三九・四七八坪×〇・七)すると六三〇〇万六八八八円となる。

そして、被控訴人石崎直也の移転費用その他一切の事情を考慮すると、控訴人が主張する立退料九〇〇〇万円は本件賃貸借の更新拒絶の正当事由を優に補完し得るものと認めるのが相当である。

以上によれば、控訴人の本件建物収去土地明渡請求の第二次請求は理由があるというべきである。

五、原判決一五枚目表一行目「また、」から同六行目末尾までを次のとおり改める。

次に賃料相当損害金の請求について検討するに、前述したところによれば、被控訴人らが控訴人に対し、昭和五三年五月三〇日から本件土地の明渡済みに至るまで賃料相当損害金の支払義務を負っていることは明らかである。

そこで、右賃料相当額について検討するに、控訴人は、地代家賃統制令に準拠して算定した額を賃料相当損害金として請求するところ、地代家賃統制令及び地代家賃統制令による地代並びに家賃の停止統制額又は認可統制額に代るべき額等を定める告示によれば、昭和五三年以降における地代の月額の停止統制額又は認可統制額は、当該土地の固定資産税課税標準額に一〇〇〇分の五〇を乗じた額に一・〇八(昭和五八年一二月二三日からは一・三七と改められたが、控訴人は計算の便宜上それ以降の分についても一・〇八を使用すると主張している。)を乗じて得た額とその年度の固定資産税額及び都市計画税額との合計額に一二分の一を乗じて得た額とされており、右統制額をもって本件土地の賃料相当額とすることについて特に不合理な点も認められないので、控訴人主張の方法によって本件土地の賃料相当額を算定するのが相当であると認める。

そして、前掲甲第四、第一〇号証及び弁論の全趣旨によれば、昭和五三年度から昭和五八年度までの控訴人所有地の固定資産税課税標準額、固定資産税及び都市計画税の合計額は、別紙各年度別地代相当額一覧表記載のとおりであることが認められ、これに反する証拠はないので、これを基にして前記算定方法により本件土地の賃料相当額を算定すると、別紙各年度別地代相当額一覧表記載のとおりの金額が算出される(なお、同一覧表中の係数〇・一二九四五は本件土地面積一三〇・二八平方メートルを控訴人所有地面積一〇〇六・四一平方メートルで除したものすなわち本件土地の控訴人所有地中に占める割合である。)。

以上によれば、控訴人の賃料相当損害金の請求は理由があるというべきである。

以上により、控訴人の本件建物収去土地明渡の第二次請求及び昭和五三年五月三〇日から本件土地明渡済みに至るまでの賃料相当損害金の請求はいずれも理由があるからこれを認容すべきであり、これを棄却した原判決は失当であって右部分に対する本件控訴は理由がある。しかしながら、控訴人のその余の請求は理由がないからこれを棄却すべきものであり、これと同旨の原判決は相当であって右部分に対する本件控訴は理由がない。

よって、原判決を本判決主文のとおり変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森綱郎 裁判官 高橋正 清水信之)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例